『嘘』

「------ごめん、それ、嘘」
 今までは気にならなかった嘘が、何故か唐突に居心地が悪くなって、口が滑った。
 その嘘はもう百年くらいつき続けている、半ば己の身とどうかしている代物で、“遠縁の親戚を捜している”という、厄介になった所から離れる為の常套句だ。親戚が居るであろう場所は、転々と変わり続けたが、大抵の場合、ちょっと遠くて、あまり交流のなさそうな場所を選ぶ。たとえば、群島諸国なら赤月に、ファレナでは都市同盟に、ゼクセンならばハルモニアに……。
 マクドール家に来た時にも、『グラスランドに遠縁が居る筈だから、その人の所に行く為旅をしていた』と皆に説明していた。
 自分でも、そんな嘘、綺麗に忘れていたのだけれど、グラスランドの商人がグレッグミンスターに事から、ウェイルが、「テッドの親戚の事、何か知っているかもしれない。暫くマリーの宿屋に泊まっているみたいだから、話を聞きに行ったらどうだ?」と話題に出したのだ。
 反射的に「うん、そうだな」と返したものの、気が付けば訂正していた。
 不自然極まりない俺の言葉に、ウェイルは不思議そうに、けれど、特に追求する気がない口調で頷き、やりかけの課題を再開した。
 多分気にしてないんだろう、と思ったけれど、親友の表情からは何も読み取れず不安になった。
「「なあ、」」
 二人で同時に声を出し、その滑稽さに一通り笑った後、ウェイルが先に口を開く。
「だったら、この先ずっとグレッグミンスターにいられるんだろ」
 嬉しそうに紡がれた言葉に、どう返せばいいのか分からなくなった。
 咄嗟に頷いてしまってから、我に返って付け足した。
「そうできたらいいな」と。

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残念なくらい短い話ですみません。
なんか…終わってしまって……orz
坊ちゃんに嘘をつくのが辛くなっていくテッドって可愛いよね、と。
でも、ウィンディと対決した後、出来る限りの本当の事を伝えた後、
無理だと分かっていながら「俺も逃げ切る」という嘘をつくテッドは有り得ないくらい可愛いと思うのです!

2012/10/10 Up