『弓矢』
ベッドの下にしまっていた木箱を引っ張り出す。
長らくしまいっぱなしだったそれは、埃を被ってうっすらと白い。
箱を空けると、一式の弓の道具------持ち歩くのに邪魔にならない短弓と、矢筒、幾本かの矢------が入っている。
「久し振りだな、相棒」
テッドは、唄うように言った。
グレッグミンスターでの生活は、自らが追われる立場にあるという事を忘れそうになる程に、平和だった。
雑貨店で働いて、マクドール家を訪ない、ウェイルと遊ぶ。
武器を持ち、戦う事など、想像も付かない日々。
最後に弓矢を使ったのは二年前。ウェイルに誘われて郊外まで狩りに行った時に使ったっきり、箱から出す事すらしていなかった。
------不思議な物だな。
テッドは独り言ちる。
昔……グレッグミンスターに来るまでは、不必要に思えても毎晩、武器の確認をしていた。その習慣をなくさせたのは、グレッグミンスターでの生活……ウェイルの存在だった。
そして今、その弓矢を引っ張り出させているのもまた、ウェイルだ。
------弓弦(ゆづる)は張り替えないとダメだけど、弓の木部はまだまだ大丈夫。充分使えるな。
取り出した相棒をくまなく点検する。十年くらい前から愛用していた武器は、ここ数年の放置にも負けず、頑健なままだった。
------オレの腕も、鈍ってなきゃいいけど…。
右手を窓から入る光に当てる。
手のひらに巻いた包帯が白く眩しい。その奥には貪欲な紋章が隠れている。
いざという時には、ソウルイーターを使う事も厭うものか。
テッドは自らに言い聞かせる。
軍に入る友人に付いて行く事を決めたから、今まで勤めていた店も辞めてきた。
「あとは、あいつに頼んで、同行の許可を貰えば万事OKだな」
テッドは弓弦を張り替えながら呟く。
うっすらとあった、ウェイルを喪くす予感。
ソウルイーターが彼の命を奪うのか、それとも、他の何かが奪うのかは判らない。
けれど------、あいつを失わずに済むなら、なんだってやってやる。
その決意の中にあるのは、懇願にも近い祈り。
明日も明後日も、来年も再来年も、十年後も二十年後も……。
ずっと、ウェイルと一緒にいられればいいのに。
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テッドって、戦うのが嫌いなイメージがあります。
ソウルイーターという強大な力を持っていても、復讐を考えず、逃げ続けてきたから、そういう印象なのだと思うのですが…。
そのテッドが、自ら従軍したい、なんて結構な決意が必要だったんじゃないかな、と。
弓矢=武器=戦う決意。
そんな感じの話。
の、つもりだったんですが…、微妙に直したら乙女回路内蔵のテッドになってしまいました。
…何故……?
2004/07/25 UP